大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)260号 判決

一 請求の原因一の1(特許庁における手続の経緯、本件商標の構成、指定商品等)、2(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

二 取消事由に対する判断

1 取消事由(1)について

(一) 商標法の定める商品区分(商標法五条一項三号、六条、同法施行令一条)は、商標登録出願に際しての出願人及び審査の便宜を図るという行政的見地から取引市場に流通する商品を分類したものであるが、右分類内容を明らかにした同法施行令一条及び同法施行規則三条の各別表を通覧するとともに、右区分に関する行政解釈を示す特許庁商標課編「商標区分解説」(成立に争いのない乙第四号証の一ないし四)の記載を参酌すれば、本件で問題となる第七類の「金属製建築または構築専用材料」及び第一三類の「金具」については、次のとおり解するのが相当である。すなわち、前者の「金属製建築または構築専用材料」は、第七類の中分類中の「建築または構築専用材料」に包含されるが、「専用材料」とされていることからも明らかなように、用途により分類されたものであつて、その文理等に照らし、専ら建築又は構築用に用途が限定されたものとして取引市場に流通する材料のうち金属製の物を意味すると解すべきであり、一方、後者の「金具」は、第一三類の中分類中に、手動利器、手動工具とともに「金具(他の類に属するものを除く。)」として分類されたもので、前記施行規則別表の第一三類下欄に列挙された商品名からも窺われるように、概ね金物店で販売されるのが通常である物を集めたものと解されるところ、「金具」という用語の一般的な字義や同下欄の「金具」の項に列挙された商品名に徴すれば、「それ自体単独で使用されるものでなく、何かに取り付ける性質の金属製品」を意味する包括的概念である(ただし、括弧書きの「除く」規定により、他の類に属するものは除かれる。)と解される。

なお、原告は「金属製建築または構築専用材料」は、金属製の柱や壁のごとく、それ自体が建築又は構築の材料であるような商品を指称する旨主張するが、そのように限定すべき根拠のないことは、前記施行規則別表の第七類下欄の「金属製建築または構築専用材料」の項に列挙された商品名中に「金属製ちようつがい」「金属製戸車」が掲げられていることに徴しても明らかである。

(二) そこで、本件商品の属すべき商品区分について検討するに、本件商品が、甲第八号証に撮影されたとおりの構成からなり、タイル工事施工後の目地部の変形や破損防止のために目地部のジヨイントとしてのみ用いられる金属製器具であること及びタイルが第七類の「建築または構築専用材料」に属することは当事者間に争いがないところ、右によれば、本件商品は、専ら、「建築または構築専用材料」であるタイルを用いた工事に際し、タイルとタイルとの間の目地部のジヨイントとして用いられる専用器具であつて、タイルを使用した建築又は構築物の構成部分となるものであるから、本件商品もまた、建築又は構築の専用材料と認められるものであり、また、そのように限定された用途のものとして市場に流通するものであることは明らかというべきである。そして、これが金属製であることも前記のとおり当事者間に争いがないから、本件商品は、第七類中の「金属製建築または構築専用材料」に属するものと認めるのが相当である。

もつとも、原告は、本件商品は第一三類の「金具」に属するものであるとして縷々主張するところ、たしかに、本件商品は、前記のように、タイルとタイルの間のジヨイントであるから、これを機能面よりみれば、原告主張のように「それ自体単独で使用されるものでなく何かに取り付ける」性質の金属製器具ということができ、その意味で第一三類にいう「金具」の概念に包含されるものといい得るが、前記のように、第一三類の「金具」の概念に属するものであつても他の類に属するものは除かれるものであることが括弧書きの規定により明定されているところであり、また、本件商品においては第七類に属すると解すべきこと前記のとおりである以上、原告の右主張は採用の限りでないというほかない。原告は、右主張の裏付けとして、成立に争いのない甲第一三ないし第二〇号証(いずれも商標公報)を援用し、第七類の「建築または構築専用材料」であるパネル等に用いられるパネルフアスナー等が第一三類の「金具」に属するとされた登録査定例がある旨主張するが、当然のことながら当裁判所の判断がこれら査定例に拘束されるものでなく、また、必ずしも、本件の判断に当たり参酌すべき適切な事例とも認められないから、これらの証拠をもつて右原告の主張の支えとなし得るものではない。

(三) そうであれば、本件商品をもつて第七類の「金属製建築または構築専用材料」に属するとした審決の認定判断は正当であるから、原告主張の取消事由(1)は理由がない。

2 取消事由(2)について

(一) 被告が、本件審判の請求の登録前三年以内に、日本国内において、本件商品に関し、その取引書類(成立に争いのない甲第四、第五号証の受領書)に別紙二(3)のとおりの構成からなる標章(本件標章)を付して頒布したことは当事者間に争いがなく、同別紙及び本件連合商標の構成を示すものであることにつき当事者間に争いのない別紙二(2)によれば、本件標章の外観は、通常のタイプ活字と思われる片仮名文字で、同一の大きさの「クリン」の三文字と「エキスパンカナグ」の八文字の間に両者を構成上分離するためのピリオド「.」を付し、これを横書きしてなるものであるのに対し、本件連合商標の外観は、縦の線を肉太にした片仮名文字で、同一の大きさの「クリン」の三文字を横書きしてなるものであることが認められる。

(二) しかして、本件標章の「クリン」と「エキスパンカナグ」との間には右のとおりピリオドが付されているから、外観上は「クリン」と「エキスパンカナグ」の文字部分が分離して観察されるところ、原告は、審決が、そのうち「エキスパンカナグ」の文字部分について本件商品の商品名を特定したものであると認定した点を誤りである旨主張している。しかしながら、簡易迅速を旨とする商取引の実際においては、一般に長い名称の一部を省略して呼称する傾向があることは当裁判所に顕著な事実であるところ(このことは原告自身も争わないところである。)、本件商品のフルネームによる商品名(一般的名称)が「エキスパンシヨンジヨイント」又は「エキスパンシヨンジヨイント金具」であることは当事者間に争いがなく、右によれば、そのフルネームは字数にして一三字ないし一五字(金具を片仮名書きするときは一六字)からなり、これを称呼又は記載するうえで、全体が冗長に過ぎることは明らかであり(「クリン」との商標と合わせて用いるときは一層そうである。)、また、略称をする際に、冒頭部分を残し末尾部分を略することは日常多く経験するところであること(例えば、テレビジヨンを略してテレビと称するごとし。)を考慮すれば、本件標章中「エキスパンカナグ」の文字部分は、その構成、語調、語感に照らし、本件商品の商品名である「エキスパンシヨンジヨイント」の名称からみればこれを「エキスパン」と略したうえ、それが金属製であることから、これに「カナグ」を付して略称としたものと解し得るのであり、「エキスパンシヨンジヨイント金具」の名称からみれば、それ自体の略称と解し得るのである。そして、本件標章が使用される商品は、前記のように、タイル工事施工の際にタイルとタイルの間の目地部に用いられるジヨイント用金具であつて、その取引者、需要者は主としてタイル工事に専門知識を有する者であると認めて差支えないものというべきであるから、右略称は、いずれも取引者、需要者間において通用性のあるものということができる。

右のような略称を原告主張のように「二重の省略による略称」と呼ぶか否かは別として、問題は省略形態が二重であるか否かにあるのではなく、それが略称として通用し得るものであるか否かにあるのであつて、かかる観点からみれば、原告の「二重の略称」を理由とする「造語」に関する主張が採用できないものであることは、すでに説示したところから明らかであり、第七類を指定商品として「EXPAN」「エクスパン」なる商標が登録されている等のその余の原告主張の事情も前記判断を左右するものではないというべきである。

(三) そうであれば、本件標章中「エキスパンカナグ」の文字部分は、審決指摘のとおり、商品を特定するために使用されているものであつて、商品の出所を識別するための標識として使用されているものではないというべきであるから、本件標章において、商標として自他商品識別力を認め得る部分は、「クリン」の文字部分のみであると認められる。なお、原告は、本件標章においては、「クリン・エキスパン」の部分が一体として自他商品識別の標識を構成していると解すべきであるとも主張するが、前記のとおり「クリン」と「エキスパン」の間にピリオドが付されているにもかかわらず、原告主張のごとく、本件標章を「クリン・エキスパン」と「カナグ」に分けて理解すべき理由は見出しがたいというほかないから、原告の右主張も採用できない。そこで、前記(一)で認定したところに従い、本件連合商標と本件標章中商標と認め得る「クリン」の部分とを対比すると、両者は、字体の点においてやや相違があるものの、両者とも片仮名の字体として特に特異な字体とも認めがたいから全体としてなお外観をほぼ共通にするといい得るものであり、その他、称呼等の点でも共通することは明らかであるから、本件標章は、これに「エキスパンカナグ」という商品名と認め得る文字が付されているものの、本件連合商標と取引社会の通念上同一のものと認めることができる。

(四) したがつて、この点に関する審決の認定判断にも何ら誤りはなく、原告主張の取消事由(2)も理由がない。

三 本件商標と本件連合商標が指定商品を同じくし互いに連合関係にあることは当事者間に争いがないところ、以上のように本件連合商標の使用の事実を認めることができるから、原告主張の取消事由はすべて理由がない。よつて、原告の本訴請求を失当として棄却する。

〔編注〕本件における別紙は左のとおりである。

別紙二

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!